PVD/表面処理関連コラム

2022年10月24日

表面処理は素材の表面に加工を施し、硬度を上げたり耐摩耗性を高めたりするなど、素材に新しい特性を付与するための処理です。
今回のコラムでは表面処理について、その種類や用途に応じた選び方などを解説します。

表面処理とは

私たちが普段触れたり使ったりしているものの多くには、表面処理が施されています。
スマートフォンの背面、腕時計やベルトのバックル、冷蔵庫や洗濯機、電子レンジなどの家電製品、自動車の外装や内部の部品、駅の自動改札機から電車まで、その例は枚挙にいとまがありません。
表面処理とは、製品や部品の表面に対して加工を施し、硬度や耐摩耗性、しゅう動性、耐熱性、電気的特性や装飾性などの性能を変化させる処理のことを言います。例えば、研磨やサンドブラストのような除去加工、エッチングのような化学的処理、塗装やめっきなどは、全て表面処理の一種です。

もし、さまざまな製品に表面処理が施されていなければどうなるでしょうか。

自動車の外装は一般的に鉄を主成分とした材料でできていますので、表面処理がなければ、自動車はすぐに茶色く錆びてしまうでしょう。また、エンジンの部品はすぐに摩耗したり、動きが悪くなってしまったりということが予想されます。

それだけではありません。多くの自動車部品や機械部品は、切削加工によってつくられていますが、切削加工に使う刃物にとっても表面処理は重要です。表面処理がなければ切削加工の効率が大きく落ち、さまざまな部品の製造コストが膨らみます。結果として、自動車や機械の販売価格が高くなることも考えられます。

このように、さまざまなものを生み出す製造の現場から日用品まで、表面処理が深く関わっています。

表面処理の代表的な種類

代表的な表面処理としてどのようなものがあるのか見ていきましょう。
一口に表面処理と言っても、その処理方法はさまざまです。代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられます。

塗装

塗装は、数ある表面処理のなかでも長い歴史を持っている技術です。例えば、日本では食器の塗装として漆塗りが長く使われていますが、北海道垣の島遺跡からは漆が塗られた装飾品が出土し、縄文時代にはすでに漆を塗料として活用していたことがわかっています。

塗装は、素材の表面に塗料を塗布し乾燥や硬化をさせることで、塗膜と呼ばれる皮膜を形成します。この皮膜により、素材の保護や防錆、潤滑性や装飾性の向上を目的としています。
また、塗料にはさまざまな色のものがあり、さらに導電性や絶縁性などの特殊な機能を持たせた塗料もあります。また、塗布の方法としても手軽な物から大型の装置が必要なものまで多種多様です。

塗装の方法として代表的なものには、刷毛やローラーによる手塗り、空圧やガス圧を利用した吹き付け塗装、ロールコーター、ホットメルト、焼付塗装などがあります。塗料となる樹脂に熱をかけて硬度の高い皮膜をつくる焼付塗装は、自動車や家電製品の外装、道路の表示などにも使われています。

めっき(ウエットコーティング)

めっきは、素材の表面に金属の皮膜を形成する技術です。金属が溶けた溶液中に素材を浸し、電気や化学反応によって金属の皮膜をつくります。電気めっき、無電解めっき、溶解めっきなど溶液の中で処理を行うことから、ウエットプロセスの一種にはなります。


電気めっきは、金属イオンを含む溶液の中に、めっき加工したい金属素材とめっき皮膜にするための金属を入れ、電流を流すことで還元反応を起こし、めっき皮膜をつくります。最も使われる機会が多いのがこの電気めっきで、金めっきや銀めっき、亜鉛めっき、クロムめっきなどが代表的です。耐食性、耐摩耗性を向上させるだけでなく、装飾性にも優れます。また、電気的特性を向上させる目的で使われることもあります。

無電解めっきは、電気めっきのように電流によって皮膜をつくるのではなく、金属イオンと還元剤との化学反応によって皮膜を形成する方法です。無電解ニッケルめっきは、電解ニッケルめっきに比べて膜厚が安定しており、耐摩耗性、防錆性に優れます。
溶融めっきは、溶かしためっき金属の中に素材を漬けてめっき加工し、その手法から「どぶ漬け」とも呼ばれます。溶融亜鉛めっきが代表的で、厚い皮膜をつくることで耐候性、耐食性に優れ、ワイヤロープや構造物に使われています。

蒸着(ドライコーティング)

蒸着は、金属や金属酸化物、窒化物、炭化物などを高エネルギーによって蒸発させ、金属イオンや原子の状態で素材表面に付着させて皮膜を形成する方法です。
気体中で皮膜形成を行うことから乾式めっき、気相めっき、ドライコーティングなどと呼ばれることもあります。
蒸着は大きく分けて、物理蒸着(PVD)と化学蒸着(CVD)の2種類の方法があります。


PVDは物理反応を利用した蒸着法で、蒸発粒子と素材それぞれにプラスとマイナスの電荷を印加することで引き寄せ合う力を応用するイオンプレーティング、粒子を材料に衝突させることで原子を飛散させ皮膜形成するスパッタリング法などの手法があります。

CVDは、化学反応を利用した蒸着法で、皮膜にしたい元素を含むガスをプラズマによって状態を変化させ、対象素材に吸着や反応させることで皮膜を形成します。ガスを使い分けることで、硬度を高めたり融点を変化させたりといった機能を付与することもできます。

アルマイト

アルマイトはアルミニウムを対象とした皮膜を形成する表面処理法の1つです。
アルミニウムは酸素と結びつきやすい性質があり、手を加えなくても空気中で酸化皮膜を形成します。この酸化皮膜だけでも耐食性を持ちますが、皮膜が薄いため長持ちはしません。
この酸化皮膜をより機能的にしたものがアルマイトです。対象となるアルミニウム素材を電解液の中に入れ、電流を流すことで強制的に酸化皮膜をつくります。
これにより、耐食性、耐久性、耐摩耗性が向上します。また、アルマイト皮膜の表面は無数の穴ができることで撥水性が向上します。さまざまな色の金属光沢を出すことができ、耐久性と装飾性を両立する表面処理法として活用されています。

溶射

溶射は、溶射剤と呼ばれる材料を吹き付けることで皮膜を形成する表面処理です。
溶射剤として使われるのは、加熱して溶融または半溶融状態にした金属やセラミックス、プラスチック、サーメットなどです。これらの溶射剤を噴射して対象素材に密着させます。
厚い皮膜をつくりやすく、厚さによって耐久性を維持できるのが特徴で、橋梁や鉄塔など大きな屋外構造物、燃焼室のような高温になる場所、メカニカルシールやスリーブなどの機械部品に幅広く使われています。

熱処理・表面硬化処理

これまでの表面処理は、基本的に素材表面に皮膜を形成することで機能性を持たせていたのに対し、熱処理や表面硬化処理は素材の表面に何かを付着することなく機能を変化させます。表面付近にある金属組織を変えたり、別の化合物へと変化させたりすることで硬さや粘り強さを持たせるのが目的です。
熱処理の種類としては、表面焼入れや熱拡散処理などがあり、熱源として高周波を用いるものは高周波焼入れと呼ばれ、特殊な熱処理として分類されることもあります。
表面硬化のために行う浸炭や窒化処理では、炭素の添加や窒素原子の拡散浸透させたうえで熱処理を行い、さらに硬度を上げることができます。

研磨

研磨は除去加工の一種でもあり、素材に対して何かを足したり加えたりするのではなく、削り取って減らすという点で、これまでの表面処理とは大きな違いがあります。
砥石や研磨剤によって素材表面の一部を削り取り、対象表面の細かな凹凸をなめらかにし、光沢を増すことができます。さらに、研磨を進めることで鏡面加工と呼ばれる状態まで仕上げることが可能です。
表面を滑らかにすることで、しゅう動性が向上するだけでなく、表面の金属組織が整うことで強度を高めることもできます。

表面処理の選び方

このようにさまざまな種類のある表面処理ですが、どのような場合にどの表面処理を選べば良いのでしょうか。

例として、アルミニウム製の製品に対して皮膜を付けたいときの表面処理を考えてみましょう。選択肢としては、塗装・めっき・蒸着・アルマイト・溶射など複数の表面処理が考えられます。
このなかで、青や赤、黒などの光沢を持たせながら装飾性も高めたいのならアルマイトや蒸着という選択肢になります。可能な限り低コストで表面処理をしたいのなら塗装、鏡のような金属光沢がほしいのなら電気めっきといったような選択になります。
最も硬い皮膜で耐摩耗性を高めたいのであれば蒸着のなかでもPVDコーティングとなり、皮膜を厚くして長持ちさせるなら溶融めっき、中間を取るなら溶射が候補になるでしょう。

続いて、樹脂へのコーティングを例にとって考えてみましょう。樹脂の場合にはアルミニウムとは異なり、溶射のような高温になる表面処理は除外されます。そのため、蒸着の中で比較的低温で処理できるスパッタリング法や、無電解めっきが選択肢となります。
また、樹脂にあらかじめ無電解めっきを施しておくことで表面に通電性を持たせ、クロムめっきや金めっきのような電気めっきの処理をする方法も考えられるでしょう。

それでは、機械部品や自動車部品として使う金属製品など、耐久性としゅう動性が求められるような例ではどうでしょうか。結論から言えば、付与したい特性を考えると、蒸着の中のDLCコーティングが適していると言えるでしょう。DLCコーティングは、炭素材料であるダイヤモンドとグラファイトの中間的な特性を持つコーティングで、非常に硬い皮膜と表面の潤滑性を持たせることができます。

このように、対象となる素材の種類、必要な条件や求める性能、使用する環境や想定する時間、それに対してコストが見合うかどうかなど、バランスを考えて表面処理の方法を選択することが重要となります。

耐摩耗性・しゅう動性に優れるPVDコーティング

代表的な表面処理の種類や用途、表面処理の選択の方法などについてご紹介しました。

今回ご紹介した表面処理の中で、蒸着に分類されるPVDコーティングは高い高度を持つ皮膜形成が可能で、耐摩耗性やしゅう動性に優れます。また、皮膜材料の選択の巾が広いことも特徴で、皮膜の多様性がありさまざまな特性の皮膜を選択できます。

神戸製鋼所では、1986年からPVDコーティング装置の研究開発を行い、多くの販売実績を持ちます。PVDの手法の中で主流となっているイオンプレーティングとスパッタリング法、どちらの装置もラインナップしております。
当社では、お問い合わせいただいたお客様からご要望をカウンセリングし、PVDコーティングを行いたい製品に対し実際にコーティングをしてご返送するサンプルテストも行います。
製造環境や要件に合わせた仕様を選択、必要な条件によって装置の仕様変更が可能で、お客様がお求めのPVDコーティング装置を提供させていただきます。

表面処理でお悩みの方やPVDコーティングの自社施工をしたいとお考えの方は、ぜひ一度神戸製鋼所までご相談ください。

 
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