PVD/表面処理関連コラム

2022年10月24日

スパッタリング法は、コーティング技術として幅広い分野で活用されています。コーティング技術のなかで、スパッタリング法はどのような特徴を持っているのでしょうか。スパッタリング法の特徴や皮膜形成の原理、種類や活用されている分野、高い密着性を可能にする手法を採用したコーティング装置などを紹介します。

スパッタリング法とは

スパッタリング法は、物質の表面に皮膜を形成するコーティング技術のうちの1つです。単にスパッタリング、またはスパッタと呼ばれることもあります。

スパッタリング法は、コーティング技術のうち「蒸着」、さらには「物理蒸着(PVD)」の1つに分類される方法です。


その他のコーティングとして有名なのは、「めっき(ウエットコーティング)」です。金属を溶かした溶液の中で電気や化学反応によって皮膜をつくる電気めっき、溶解めっきなどが代表的な例として挙げられます。

蒸着ではめっきとは異なり、皮膜素材となる金属を蒸発させたり、原子やイオンの状態で飛ばしたりして、対象の物質にぶつけて堆積させ皮膜を形成するのが特徴です。溶液に浸さずにコーティングを行うことから、乾式めっきまたはドライコーティングと呼ばれています。

スパッタリング法の原理

スパッタリング法ではどのようにして皮膜をつくっているのか、その原理を見ていきましょう。


スパッタリング法では、密閉空間にコーティングしたい物質と、皮膜材料(ターゲット材料)を設置し、真空にします。続いて、この状態でAr(アルゴン)ガスを導入し、ターゲット材料をマイナス電極としてグロー放電することでArをイオン化します。
イオン化したArはプラスの電気を帯びているため、マイナス電極のターゲット材料に急速に引き寄せられ激しく衝突します。このとき、Arイオンの衝突によってターゲット材料の原子を弾き飛ばします。
弾き飛ばされたターゲット材料の原子は、コーティング対象の物質に付着しながら堆積していき、皮膜を形成します。これがスパッタリング法によって皮膜を形成する原理です。

「スパッタ」という言葉は、絵画の手法でも使われます。ブラシに絵の具を付けて網にこすることで、絵の具を小さな飛沫として飛ばす手法です。また、金属同士をアーク溶接によって接合するとき、小さな金属の粒が火花となって飛び散りますが、この小さな金属の粒もスパッタと呼ばれます。
このように、スパッタは小さな粒子が飛び散る様子を表す言葉で、スパッタリング法も同じように小さな粒子を弾き飛ばすことによって皮膜材料を飛ばし、皮膜をつくります。

スパッタリング法によるコーティングの特徴

スパッタリング法によるコーティングには、次のような特徴があります。

皮膜の付着力が強い

イオンの衝突によって皮膜材料の原子が飛び出すことから、真空蒸着法に比べ、粒子のエネルギーが大きく、付着力の強い緻密な皮膜を形成できます。これにより、耐摩耗性が高く剥がれにくいコーティングが可能です。

硬い皮膜をつくれる

原子レベルでの堆積によって皮膜がつくられていくことから、高硬度の皮膜をつくれます。

表面が滑らか

原子レベルで粒子が堆積していくため、粒子は隙間なく並びます。よって、表面が平滑で、面粗さの小さな皮膜をつくることが可能です。

高い精度で皮膜形成の制御が可能

スパッタリング法では皮膜をつくるプロセスが安定しており、膜質や膜厚の制御を高精度で行うことができます。そのため量産時にも再現性が高く、製品としての品質も安定します。

さまざまな材料での皮膜をつくれる

スパッタリング法はArイオンの衝突によって皮膜材料の原子を弾き飛ばします。皮膜材料を蒸発させるために溶融点まで加熱する必要がありません。そのため、融点の高い金属を皮膜材料とすることができます。また、融点の異なる金属同士の合金や化合物でも、分離せずにその合金や化合物のままでの成膜が可能です。

さまざまな物質へのコーティングができる

皮膜材料を高温にしなくても皮膜をつくることができるため、高温では溶けてしまったり変形してしまったりするような基材へのコーティングも可能です。皮膜材料の多様性が高いだけでなく、皮膜対象の多様性も高いのが大きな特徴です。

スパッタリング法の種類

一口にスパッタリング法と言っても、電源方式や磁場による制御など、コーティングを行う流れにはいくつかの種類があります。以下に代表的なものをいくつか紹介します。

電源の種類

スパッタリング法ではターゲット材料をマイナス極として電圧を印加します。このとき、次のような電源が使われています。

  • DC(直流)電源
  • パルスDC電源
  • AC(交流)電源
  • RF(高周波)電源
  • マイクロ波電源

電源の種類によって成膜速度の向上や、成膜プロセス制御の高精度化が可能になります。

磁場制御の種類

スパッタリングの基本型は2極スパッタリングと呼ばれるもので、ターゲット材料にマイナス、皮膜対象側にプラスの電圧を印加します。この際に2極の間に磁場をつくることで、Arガスのイオン化を促進し成膜速度を上げたり、皮膜特性を制御したりすることを可能にした方式もあります。

  • マグネトロン方式
    ターゲットの裏に磁石を設置して磁場をつくり成膜速度を向上
  • デュアルマグネトロン方式
    2本のターゲット材料を並べて交互に電圧をかけることで絶縁性皮膜の形成を可能にしたもの
  • アンバランスドマグネトロン方式
    N極とS極の磁場の強さを不均等にすることで磁界をコントロールし、皮膜形成工程を高エネルギー化させながら皮膜特性の制御を可能にしたもの

スパッタリング法によるコーティングの用途

スパッタリング法によるコーティングは次のような分野で活用されています。

自動車部品

スパッタリング法はさまざまな皮膜材料の選択ができ、その中には硬度と潤滑性の高いDLCコーティングもあります。
高硬度と潤滑性、さらに耐熱性も高いことから、エンジンの部品にも使われています。

機械部品

スパッタリング法は高精度で平滑な皮膜形成が可能なため、玉軸受(ベアリング)や油圧ポンプなどの機械部品にも使われています。

半導体

高温にならず精密な薄膜の形成が可能なことから、半導体のコーティングとしても使われています。

CD・DVDなどの光学ディスク

樹脂でできている光学ディスクにコーティングをする際にも、スパッタリング法が用いられています。

神戸製鋼所のスパッタリングコーティング装置はUBMSを採用

神戸製鋼所では豊富な種類のPVDコーティング装置を提供しています。スパッタリング法によるコーティング装置においては、UBMS(アンバランドマグネトロンスパッタ)を採用しています。

UBMSは磁界をコントロールすることで皮膜形成工程を高エネルギー化し、硬質膜の形成が可能です。また、従来は密着性に課題があったDLCコーティングについて、皮膜対象との間に中間層をつくり高い密着性を得ることができます。硬度の制御が可能で、金属を添加したDLCを含む多彩なDLC皮膜形成に適しています。
DLCコーティングだけでなく、金属窒化物膜や酸化物膜などの多様な皮膜の形成が可能で、他のコーティング手法に比べ、平滑性が高く低温での処理が可能と、さまざまな面でのメリットがあります。

スパッタリングコーティングは神戸製鋼所へご相談ください

神戸製鋼所では、1986年からPVDコーティング装置の研究開発を行い、多くの販売実績を持っています。全世界で600台以上の納入実績があり、UBMSのスパッタリングコーティング装置についても、納入実績は100台を超えています。

当社では、お問い合わせいただいたお客様からご要望をカウンセリングし、PVDコーティングを行いたい製品に対し実際にコーティングをしてご返送するサンプルテストも行います。

製造環境や要件に合わせた仕様を選択、必要な条件によって装置の仕様変更が可能で、お客様がお求めのコーティング装置を提供させていただきます。スパッタリング法によるコーティング装置については、ぜひ神戸製鋼所へご相談ください。

 
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