PVD/表面処理関連コラム
DLCコーティングとは?特徴・目的や方法について解説
DLCコーティングは幅広い分野で導入され、金属だけでなく樹脂へのコーティングとしても活用されている表面処理技術です。今回はDLCコーティングの特徴や種類、メリットなどを紹介します。
DLCコーティングとは
まずは、DLCコーティングの概要について確認しておきましょう。
DLCは炭素を主成分とする材料
DLCは「Diamond-Like Carbon」の略であり、「ダイヤモンドのようなカーボン(炭素)」と表されているように、ダイヤモンドと似たような特徴を持つ炭素材料です。具体的には、ダイヤモンドとグラファイト(黒鉛)両方の結合構造を併せ持っている、アモルファス構造(非晶質構造)の物質が、DLCです。2つの結合構造を併せ持つことで、ダイヤモンドの硬さとグラファイトの滑りの良さを両立しています。
炭素材料はさまざまな姿と特性を持つ
ダイヤモンドも炭素からできていますので、「ダイヤモンドのようなカーボン」という表現には首をかしげたくなる方もいるかも知れません。この名前の秘密は、炭素材料が持つさまざまな表情が理由となっています。
炭素材料は、結合の状態によって結晶構造が変わり、混合物の種類や混合比率によっても、その姿や性質を大きく変えます。
例えば、炭素材料のなかで代表的な存在として、ダイヤモンドがあります。ダイヤモンドは透明度が高く美しい光を放つことから宝石としての魅力を持つほか、天然素材としては最も硬い物質としても有名です。また、グラファイト(黒鉛)は鉛筆の芯や車のブレーキパッドに使われ、リチウムイオンバッテリーや乾電池の電極としても使われています。このほか、複合的な混合物を添加することでつくられる炭素繊維は、炭素繊維強化プラスチックとして航空機や人工衛星の部品としても使われ、遠赤外線ヒーターとして知られるカーボンヒーターも炭素繊維が熱源となっています。バーベキューで使う木炭も、炭素を主成分とする炭素材料の1つと言えます。
このように、炭素材料はさまざまな姿と特性を持っています。このなかで、ダイヤモンドとグラファイトは自然界にも存在する物質で、全く別の特性を持ちながら炭素原子の結合構造だけが異なる炭素材料です。このダイヤモンドとグラファイトの結合構造を合わせることで、中間的な特性を持たせたものがDLCです。
DLCで膜をつくるDLCコーティング
DLCで素材の表面に膜をつくる表面処理をDLCコーティングと言います。
DLCはもともと、皮膜として開発された材料です。そのため、DLCというだけで一般的にはDLCコーティングを指します。
DLCは1970年代に開発が始まり、炭素材料の研究が進むことでDLCコーティンに関する製造プロセスや皮膜特性の開発も進みました。近年では環境配慮の観点からエネルギーの使い方やエネルギー効率が重視されるようになり、装置の中でできる限りエネルギーを無駄にしない工夫も求められるようになっています。
こういった背景から、部品の耐摩耗性と潤滑性を向上させることでエネルギー効率の向上に役立つことのできるDLCコーティングが注目を集めています。
DLCコーティングの特徴とメリット
続いて、DLCコーティングの特徴やメリットについて詳しく見ていきましょう。
DLCの特徴
ダイヤモンドとグラファイトの特性を併せ持つDLCには次のような特徴があります。
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硬い
ダイヤモンドの結合構造を持つことから非常に硬い皮膜をつくることができます。また、ダイヤモンドとグラファイトの比率を変えると、幅広く硬さを変えることも可能です。 -
滑りが良い
グラファイトは滑りがよく固体潤滑剤やオイルの添加剤としても使われます。DLCもこの滑りの良さを持っています。 -
電気を通す/通さない
グラファイトは電極としても使われるように電気抵抗が少なく導電性に優れます。DLCもグラファイト比率を高くすることで導電性を持たせることが可能です。一方、ダイヤモンドは絶縁性のため、ダイヤモンドの比率を高くすると電気を通しにくいDLCも可能です。また、DLC中に水素を含ませることで電気を通しにくくすることもできます。 -
表面が均一で滑らか
原子レベルで結びついているアモルファス構造のDLCは表面が平らで滑らかです。 -
化学的に不活性
DLCは化学的に安定していて不活性です。他の物質と結びつきにくい特徴があります。 -
錆びない
炭素を主成分とするため、他のコーティングに使われる金属皮膜素材のように錆びることはありません。 -
膜の厚さによって光り方が変わる
グラファイトの特徴を持つDLCは黒光沢色となりますが、膜を薄くすることでダイヤモンドの透過性を発揮し、赤茶や青などさまざまな色に光り方を変えます。
DLCコーティングで得られる効果
上記のようなDLCの特徴によって、DLCコーティングをすることで皮膜の対象となる素材に次のような効果を持たせることができます。
- 耐摩耗性
高い硬度を持つ皮膜によって耐摩耗性を向上させます。 - しゅう動性・耐凝着性
潤滑性を持つためしゅう動性が向上し、凝着や焼付きを防ぐ特性も向上します。 - 耐食性・ガスバリア性
化学的に不活性で錆びない皮膜素材であるため、コーティングする素材の耐食性を向上させ、ガスバリア性も長く維持されます。 - 電気特性
グラファイトの導電性によって電気特性を維持、または用途に応じて電気特性を変化させてコーティングすることが可能です。 - 生体親和性
表面が平滑で攻撃性が低く、炭素主体で安定しているため生体親和性が高い皮膜をつくることができます。 - 光学特性・装飾性
透過性を変えられるため、特定波長域の光だけを透過する特性を持たせることも可能です。また、耐摩耗性を高めながら光沢を持たせることで日用品の装飾目的でも使われます。
DLCコーティングの用途と目的
DLCコーティングは次のような場所で活躍しています。
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自動車部品
自動車の部品は安心して乗れるよう長持ちすることが求められます。すぐにすり減ってしまったり、壊れてしまったりしては、メーカーの信頼が下がるだけでなく安全にも関わります。
また、温室効果ガスとしてCO2排出量の削減が世界的な目標となっている昨今では、自動車のエネルギー効率も重要視されます。
このとき、自動車部品にDLCコーティングが施されていることで、耐摩耗性としゅう動性が向上し、部品寿命の長期化、エネルギーロスの削減につながります。
自動車部品にとってDLCコーティングはなくてはならないものとなっています。 -
アルミ加工用の切削工具
アルミのような柔らかい金属に対して切削加工をするとき、切削工具にアルミの切削屑が付着し、構成刃先と呼ばれる現象の発生が課題となります。
構成刃先は本来の刃先を覆うように金属が付着して新たな刃先を形成してしまうため、加工精度が落ちるだけでなく工具の欠損にもつながります。
切削工具にDLCコーティングをすることでしゅう動性と耐凝着性が向上し、切削屑の付着を防ぐことができます。 -
医療器具・医療用材料
DLCコーティングは生体親和性が高く人体への影響が少ないことから、医療器具や医療用材料にも使われています。
医療用ピンセットや電気メスなどに使われているほか、人工血管や人工心臓への応用も進んでいます。 -
ペットボトル
DLCコーティングはペットボトルのコーティングとしても活用されています。
DLCコーティングは耐食性とガスバリア性が高く、飲料の酸化を防ぐことができるため、ワインや食用油、お茶などのペットボトルに使われています。
また、薄い皮膜で効果を発揮できるため、透明性を維持したまま内容物を視認できる状態でコーティングができるという点も、ペットボトルのコーティングとして適している理由の1つです。 -
ゴルフクラブ・テニスラケット
DLCコーティングは高級感のある黒い光沢色によって装飾目的で使われることもあります。
ゴルフクラブやテニスラケットなどのスポーツ用品では、耐摩耗性を向上させながら装飾性もプラスすることができます。 -
ヒゲ剃りの刃
DLCコーティングが持つ複数のメリットに適している用途としてあげられるのが、ヒゲ剃りの刃へのコーティングです。
ヒゲ剃りの刃は切れ味を維持するために耐摩耗性が求められるほか、人体に触れるため生体への影響の少なさも重要です。また、滑りの良さ、錆びにくさも求められるためDLCコーティングが持つしゅう動性や耐食性もメリットとなります。
DLCコーティングの種類
DLCコーティングはダイヤモンドとグラファイトの特性を合わせモルアモルファス構造となっていますが、この組み合わせの比率を変えることで特性を変えることができます。また、水素を含有させることで別の特性を持たせることが可能です。
このような、炭素の結合構造と水素の含有量によってDLCの種類を表したのが下の図です。
グラファイトはsp2の結合構造からなり、ダイヤモンドはsp3の結合構造からなります。
アモルファス構造の中でsp2の比率が多ければ、しゅう動性や導電性などのグラファイトの特性が大きくなり、sp3の比率が多ければ、硬さや透過性といったダイヤモンドの特性が大きくなります。
また、水素(H)の含有率が多いほど硬度が下がり、靭性は上がるため粘り強さが出ます。
このように、DLCはsp2・sp3・Hの比率によって特性が変わりますが、このなかで大きく4種類に分けるとすると次のように分類できます。
a-C
ta-C
a-C:H
ta-C:H
a-Cはアモルファスカーボン、ta-Cはテトラヘドラルアモルファスカーボンを表し、水素が含まれているとHが付きます。
他のコーティングでは、一般的に皮膜素材によって特性が決まりますが、DLCの場合は結合構造と水素含有率によって特性が大きく変わり、比率によって中間的な特性を出すことも可能です。
DLCコーティングのプロセス
DLCコーティングをする手法として、次の3つの方法があります。
- AIP(アークイオンプレーティング)
- スパッタリング
- PECVD(マイクロ波・高周波・パルス・DCなど)
AIPではダイヤモンドの結合構造に近い高硬度のDLC形成が可能ですが、高硬度のDLCは低温での形成が必要なため、成膜速度は遅くなります。
一方、PECVDは高速の成膜も可能ですが、原理的に必ず水素を含有するため、比較的低硬度のa-C:Hの形成に使用されます。
スパッタリングは高硬度の皮膜形成には不向きで、成膜速度も早くありませんが、成膜プロセスが安定していることから膜質や膜厚を高精度で制御できる特徴を持っています。
神戸製鋼所のDLCコーティング
神戸製鋼所では、DLCコーティングに用いられる、AIP・スパッタリング・PECVDの3つのプロセスに対応し、幅広いDLCの形成に対応するコーティング装置を提供しています。
このなかで、スパッタリングのコーティング装置にはUBMS(アンバランスドマグネトロンスパッタ)方式を採用しています。
UBMSでは、特殊な磁場をつくることで皮膜形成工程を高エネルギー化し、皮膜特性を制御します。DLC形成では高エネルギー化により、スパッタリングによるDLCとしては高硬度のDLCが形成可能となります。
剥がれないDLCの中間層技術
従来、DLCは密着性が低く剥がれやすいという点が課題でした。
神戸製鋼所では、スパッタリング法の特徴を生かした独自の中間層形成技術によって、段階的に親和性の高い中間層を積み重ねることで密着性の高いDLCコーティングを可能にしています。
密着性の高いDLCコーティングには神戸製鋼所のUBMSシリーズを
神戸製鋼所では、1986年からPVDコーティング装置の研究開発を行い、多くの販売実績を持ちます。イオンプレーティング、スパッタ法どちらの装置もラインナップしております。
当社では、お問い合わせいただいたお客様からご要望をカウンセリングし、PVDコーティングを行いたい製品に対し実際にコーティングをしてご返送するサンプルテストも行います。
製造環境や要件に合わせた仕様を選択、必要な条件によって装置の仕様変更が可能で、お客様がお求めのPVDコーティング装置を提供させていただきます。ぜひ一度、お問い合わせください。
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