PVD/表面処理関連コラム
PVDコーティングとは?CVDとの違いやメリット・デメリットを徹底解説!
広義の意味でのコーティング、PVDとCVDの違いとは?
金属を切削する工具、プレス加工や射出成型を行うために使う金型などは、表面に特殊な皮膜をつくり、硬さや耐摩耗性を向上させた表面処理を施しています。この処理を広義の意味で「コーティング」と呼んでいます。
金属分野では、材料としてチタン(Ti)、クロム(Cr)といった材料を何らかの方法で蒸発させ、基材の表面に付着させるため「蒸着」と言う表現もよく用いられます。さらに、これを細かく分類すると「物理蒸着」と「化学蒸着」があります。物理蒸着は「PVD」(Physical Vapor Deposition)、化学蒸着は「CVD」(Chemical Vapor Deposition)と呼ばれます。
端的にいうと、PVDは真空で硬質な皮膜を物理的に蒸着させる技術です。冒頭で触れた、硬い工具だけでなく、私たちがよく見かけるスナック菓子やインスタントラーメンの内袋も、アルミ(Al)を蒸着して湿気や酸化から保護しています。
一方で、CVDは「Chemical」の頭文字どおり、化学反応を利用して、成膜される技術で、シリコン(SiO2)の酸化膜など、半導体製造プロセス向けで利用されております。
PVD(物理蒸着)において押さえたい3つの大分類とは?
一口にPVDと言っても、いくつか種類があります。
代表的な「真空蒸着」「スパッタリング」「イオンプレーティング」を押さえておきましょう。【図1】
真空蒸着
真空蒸着は、抵抗や電子ビームで材料を加熱、蒸発し、蒸発した物質を基板上に堆積させる方法です。
【図1】
成膜材料には、アルミニウム(Al)や銀(Ag)など多くの金属が使われます。
この真空蒸着は、ガラスやプラスチックなどへの適用事例が多くあります。
真空蒸着のメリットは、成膜速度が速いことや装置の構成がシンプルなことがあげられます。また、処理温度が低く、対象基材へのダメージが少ないことも利点です。一方、加熱により材料を蒸発させるシンプルな機構のため蒸発粒子のエネルギーは低く、高い密着性は得られません。また、合金材料を蒸発する場合、材料に含まれる元素の蒸気圧の違いにより、合金膜の成膜は難しいといったデメリットもあります。
スパッタリング
スパッタリングは真空炉内でアルゴン(Ar)ガスを供給し、イオン化したArを金属に衝突させ、はじき出された粒子が基板に堆積されます。砂場に石を投げ、はじけ飛んだ細かい砂を対象物に付着させるようなイメージです。ちなみに、Arガスを使う理由は、不活性ガスなので材料と反応が起きないためです。詳細はスパッタリングのコラムを参照。
【図2】
主なメリットは、付着力の強さや、膜厚の制御性、大面積への適応性、高融点材料の成膜の容易性があげられます。さらに、真空蒸着法では加熱により材料を蒸発させるため、蒸気圧が異なる材料を含む合金材料は成膜しにくいといったデメリットがありましたが、スパッタリングはイオン化したArで材料を叩き出すといった原理上、合金材料も制御しやすいといったメリットがあります。このような特徴により、電子産業から機械、光学、プラスチックなど、広範囲で利用されております。デメリットは、成膜速度が遅いことや設備とメンテナンスにコストが掛かることです。
イオンプレーティング
イオンプレーティングは「イオンを用いた活性化蒸着」と言われており、真空蒸着とプラズマの併合技術であります。そのため、真空蒸着と仕組みが似ています。真空蒸着法では金属材料を加熱し蒸発させ、そのまま基板に堆積させますが、イオンプレーティングでは蒸発した粒子をプラズマ中でイオン化し、高いエネルギー持ったイオンが基板に堆積されることになります。
【図3】
上記原理により真空蒸着法、スパッタリング法よりも緻密で密着性の良い膜を形成可能です。一方で、スパッタリングと同様に、設備とメンテナンスにコストが掛かります。
CVD(化学蒸着)は、化学反応を促進するエネルギーの与え方で大別
CVDでは、成膜したい材料を含む原料ガスを基板上に供給し、基板表面での化学反応により皮膜を形成する方法です。
【図4】
化学反応のエネルギーの与え方により細分化され、熱を与えて分解・反応させる「熱CVD法」、プラズマのエネルギーで化学反応を促進する「プラズマCVD法」、光によって分解する「光CVD法」の3種類に大別されます。
上記3種類がありますが、熱CVDが代表的な方法として知られており、現在でも主流になっています。
熱CVDは約800℃~1000℃ぐらいまで高温にしなければ、化学反応による膜形成が促進されません。一般的にCVDは高温なので、PVDと比べて皮膜の密着性が良いという特徴があります。一方で、母材側に耐熱性がないと、熱のダメージを受けます。そこで、熱CVDに比べて約400~500℃の低温で膜ができるように開発されたのがプラズマCVDです。
PVDとCVDの違いとは? メリット・デメリットを詳しく解説
では、PVDとCVDの違いとメリット・デメリットは、どのような点にあるのでしょうか?
【表1】PVDとCVDの主な違いとメリット・デメリットについてまとめました。
【表1】
PVD | CVD(熱CVD) | |
---|---|---|
皮膜の原料 | 固体(プレート) | 気体(ガス) |
皮膜の種類 |
多種多様 |
PVDに比べ少ない (ガス原料で制約がある) |
成膜温度 |
CVDに比べ低温 (200℃~500℃) |
高温(1000℃) |
密着力 | 良好 |
PVDより高い |
成膜速度 | 遅い |
速い |
化学物質 | CVDのような危険なガスはほとんど使用しない |
危険なガスを使用する場合もある |
皮膜の原料
PVDとCVDの大きな違いは、供給される皮膜材料の形態にあります。
PVDは材料を固体(プレート)で供給しますが、CVDは材料を気体(ガス)で供給します。
皮膜の種類
CVDは皮膜の原料がガスのため、PVDに比べ膜種は少なくなります。
PVDは複雑な多元系の合金でも、その組成の材料さえできれば成膜できるため膜種のバリエーションは多種多様です。
例えば、PVDで代表的な皮膜材料にTiAlN(Titanium Aluminium Nitride)があります。高硬質で耐摩耗性に優れた窒化チタン(TiN)に、アルミニウム(Al)を添加し、耐熱特性を加えた硬質複合薄膜になりますが、最近ではTiAlNに他の元素を添加するような3元系、4元系も一般的になってきております。このような多元系の膜でもPVDでは成膜可能です。
成膜温度
次にPVDとCVDは成膜温度の違いもあります。PVDが200~500℃、CVD(熱CVD)では800~1000℃になります。高温の方が密着性は良くなりますが、前述のように母材への影響も出ます。材質がハイス基材のような場合、CVDで高温処理を実施すると、材料の鈍りや寸法変化が発生するといったことが懸念されます。
密着力
熱CVDは1000℃付近まで高温で処理するため、密着性は非常に高くなります。CVDの中でもプラズマCVDはPVDと同程度の400~600℃での処理となりますが、プラズマCVDとPVDを比較した場合は、PVDの方が高い密着性を示します。
成膜速度
成膜速度に関してはCVDの方がPVDに比べ10倍程度速いとされております。そのため、一般的にCVDは厚く、PVDは薄く膜が形成されることが多いです。ただし、製品によってはPVDでも20μm以上の膜を形成でき、CVD相当の膜厚を形成する場合もあります。
化学物質
化学物質という点では、CVDは可燃性、爆発性、有毒性のガスを使うリスクがあり、やはり安全面で難ありといえるでしょう。
一方、PVDにはそういったリスクはなく、安心して利用できます。
初めてのPVDは受託生産で!コストメリットが合えば専用装置も視野に
ここで紹介したPVDのスパッタリングやイオンプレーティングといった表面処理技術は、一般企業では受託生産する場合が多いでしょう。また、量産化によるコストメリットが揃えば、専用装置を導入して内製化するアプローチもあります。その場合、かゆいところに手が届く国産メーカーを選んだ方が良いかもしれません。海外製が多いPVD装置のなかで、国産のPVD装置を提供している代表的なメーカーが神戸製鋼所です。
神戸製鋼所では、アーク放電によるイオンプレーティングを採用したアークイオンプレーティング装置(AIP)と、アンバランスドマグネトロンスパッタリング(UBMS)を採用したUBMS装置などを提供しています。AIPは主に切削工具や金型、一方、UBMSはエンジンや燃料ポンプなどの自動車部品、ベアリング、ボールねじといったしゅう動部品の皮膜形成に使われています。
また、専用装置のみならず、受託生産も請け負うなかで、さまざまな皮膜の開発も行っている点が神戸製鋼所の強みです。「BELCOATシリーズ」は、30年以上にわたるノウハウによって、最適な皮膜を安定的に生成できる条件をセットに、装置と共に販売しています。初めてPVDの内製化にチャレンジする場合に非常に役立つでしょう。
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